南の島の夜空は美しい。特に夏の夜空は、日本では地平線からあまり高く上がらない天の川の最も濃い部分が空高くに昇るので、それはもう息を呑む美しさである。更に、星が瞬かないせいだろうか、日本で見るよりも2倍くらい星が明るいように思える。惑星などは電灯が灯っているごとくに明るい。日本国内で同じような星空を見ようと思ってもなかなかそのような場所はない。
今回私は、天文同好会のS氏より、手動のポータブル赤動儀を借りていった。赤動儀とは、星の日周運動を追尾する機械で、この上にカメラを乗せて長時間シャッターを開いていても、星が点のまま撮影できるものである。
さて、星の撮影用のフィルムを買い忘れてしまったことはすでに書いた。手持ちがあるのはISO50のベルビアだけである。これで星を撮影するのはかなり苦しい。まず天の川は写らないであろう。天の川を写すには、ISO400で10〜20分はシャッターを開けていないとならない。増感現像という、現像時の感度アップのやり方があるが、画質が荒れる上、フィルムには「低照度相反則不軌」という特性がある。通常の明るさの元で、例えばシャッター速度1/125秒、絞りF5.6と、シャッター速度1/256秒、絞りF4では同じ露出になる。だが、非常に暗い所ではこの関係が崩れて、露出時間を長くしていっても、それに比例した露出が得られなくなるのである。だから、ISO50で4倍の増感現像してもISO200相当にはならないのだ。それでもまあ星座くらいは写せるであろう。

初日の夜は雲が多くて、時々星が見えるという位にしかならなかった。それでも南十字星はなんとか見られた。撮影は次の日の晩に期待することにした。
二日目の夜もかなり雲が多めだったが、前の日よりはかなり良かった。7×50の双眼鏡を持ち出して色々観察してみた。一番楽しみにしていたエータ・カリーナ星雲は雲に邪魔されて見えなかった。熱帯地方の特徴のようだが、高層の気流が殆ど無いので、高い所にある雲はいつまでも同じ場所に陣取って動かない。南十字星は見えているのに、その隣にあるエータ・カリーナが見ることが出来ない。残念・・・。南十字座には1等星が2つ、その左隣のケンタウルス座には0等星1つ、1等星2つと、明るい星がたくさんあり賑やかだ。この南十字座の横2つの星と、その真横にあるケンタウルス座の明るい2つの星は「ポインター」と呼ばれていて、天の南極の位置を知るのに使われるらしい。ケンタウルス座の中には、全天で一番明るく大きい球状星団「オメガ星団」がある。これは肉眼でもぼんやりと見えることから、星座を構成する星の一部になっている。双眼鏡で覗くとボーっとした光の塊がはっきりと見えた。
9時頃になると、かなり空も晴れてきて、天の川がはっきり見えるようになってきた。やっぱり南の島で見る天の川はすごい。高感度フィルムを持ってこなかったことが本当に悔やまれる。雲もかなり無くなってきたので、写真撮影をすることにした。ただ、北極星が雲に隠れている(高度は7度ほどしかない)ため、ポータブル赤動儀の極軸を合わせられないので、これの使用は諦めて固定撮影をすることにした。南十字星はほとんど沈みかけているので諦めて、サソリ座とケンタウルス座を狙うことにした。5枚くらい撮影した所で月が出てきた。あとはビーチ・チェアに寝転んで、南の島の夜空を満喫したのだった。雨さえ降らなければこのまま寝てしまっても全く問題ないだろう。
三日目の夜はモエン島のブルー・ラグーン・リゾートだ。天気は三晩のなかで一番良かった。だけど、日本食レストラン「宝島」で大矢さんの話を聞きながらずっと飲み続けていたので、もったいないと思ったがこの日の星空観察はナシ。

日本に帰ってから、撮影したフィルムを4倍増感してみた。やはりほとんど写っていなかった。トホホな出来ではあるが、下の写真はサソリ座とケンタウルス座である。