そうだ、小笠原へ行こう!
時は桜の花も咲き出した4月の上旬。今年の夏は出張で夏休みが取れないと 思っていたところ、なんとそれが延期になってしまった。 それならば何処へ行こうと思案したところ、

  1. 大物釣りが出来る

  2. ダイビングが出来る

の2点を満足する候補地として「小笠原」が急浮上してきた。小笠原には 過去に2回ほど行っており、特に前回は、母島にも足を運んで釣りをして、 40cmのイスズミを釣り上げられなかった悔しい思いをしているので、 母島行きは絶対外せない。しかし、小笠原海運から、 「おがさわら丸」の運航スケジュール表を取り寄せてみると、お盆休みの航海は父島2泊の パターンになっている。これでは母島に行けても釣りをする時間はほとんど取れない。 ましてや、更にダイビングなどとは、out of 問題である。そこで、ちょっと 難しいかなと思いながらも、おがさわら丸2航海の滞在(8/7〜8/17)をすることに決めた。 釣りの日数と、ははじま丸運航のスケジュールを考え、8/8〜8/13を母島滞在。 8/13〜8/16を父島滞在とすることに決める。

チケットの予約、宿の手配
おがさわら丸の乗船(予約)券は、通常乗船日の2カ月前から発売されるが、 7月、8月の乗船券だけは、4月の中旬から発売開始である(今年は4月15日)。 同行するメンバーを決め、発売当日には電話で予約をした。乗船券は旅行代理店でも 購入できるが、「小笠原海運(03-3451-5171)」に直接申し込んでも購入できる。 旧おがさわら丸には、特等(A,B)、1等、2等の船室クラスしかなかったが、 新しくなったおがさわら丸(6,679t)は、特等、特1等、1等、特2等、2等と、 クラスが増えている。25時間30分も過ごすわけだから、出来ればベッドで 寝ることのできる1等を選択したいところであるが、料金は2等の倍である。 前回はなぜか裕福だったので1等だったのだが、今回は2等で我慢することにした。 乗船券が取れたら、間髪を入れずにやらなければならないのが、宿の手配である。 島内の宿の数はあまり多くないので、特に夏期にはすぐに一杯になってしまう。 前回は、母島では「御幸(みゆき)」、父島では「ターンハウス美津」だった のだが、「御幸」はクーラーが無く、夏休みには孫がやって来て、宿の人達の 主たる関心がそちらに集中し、宿泊客はあまり構ってもらえなくなるため、今回は別の 所にすることにした。最終的に母島「民宿つき」、父島「ターンハウス美津」に 決定し、予約を入れた。

ダイビング・サービスの手配
今回失敗をしてしまったのが、ダイビング・サービスを手配するのを 忘却していたことであった。まだ日にちがあるからと後回しにしていたところ、 会社の仕事が忙しくなり、出張などにも行ったりして、すっかり予約をするのを 忘れてしまった。父島在住の知合いが良く利用している、「エスコート」を利用 しようと決めていたのであるが、出航1週間前になって慌てて電話を入れると、 「一杯です」の悲しい返事。3件めに電話を入れた PAPA'S DIVING STUDIOで、 なんとか受け入れOKしてもらえることになった。

いよいよ出航日
8月7日、おがさわら丸出航の日が来た。おがさわら丸は、東京竹芝桟橋を朝10時に 出航し、翌日の午前11時30分父島二見港に入港する。 予約券には、「朝9時までにはお集まり下さい」と書いてあるので、 通勤ラッシュの時間帯を大きな荷物で肩身の狭い思いをしながら、 JR浜松町駅に辿り着く。竹芝桟橋にはすでにかなりの人数の人達が集まっていた。 予約券を窓口に持っていくと、引き替えに乗船名簿と乗船券を渡してくれる。 この乗船名簿は、乗船時までに記入し、乗船口で係員に渡して乗り込むことになる。 乗船名簿には通し番号が振ってあり、この番号の100番単位で順番に乗船していく。 なお、1等などの指定券は一番最初に乗り込む権利が与えられる。我々が受付を すると、すでに600番台の番号になっていて、かなり後の方になってしまった。 とは言っても、伊豆諸島に行く東海汽船と違って(注)、すでに一人一人の占有場所は 予め割り当てられているので、最初になったから良い場所が取れると言う訳ではない。 むしろ、後の方は、船底近くの揺れの少ない部屋に割り当てられる可能性が高い。 夏の混雑時には、それこそ奴隷船か難民船かと思えるほどの人間密度になる。 一人の割り当てスペースは、敷き詰められた毛布により示されており、およそ幅50cm、 長さ1.6mである。これ以上の身長の人は、足を曲げるか、足の先に寝ている住人 との領土領有権争いに勝つか、領土の相互提供条約を結ぶ(暗黙のうちに)しかない。 また、この混雑を嫌って、通路や甲板にゴザを引いて寝る人達が出てくる。 隣の人がそうして出ていってくれればラッキーだ。

注:現在は、乗船券は予約制になっており、以前よりはまともになったと思う。

天気晴朗なれど浪高し
東京湾を抜けると南南東に進路を取り、小笠原へ一直線である。 この日、天気は晴れているのだが、九州方面を北上していった、台風12号の影響で、 西の方から来るうねりがかなり高い。館山が左舷に見えるころから揺れが大きく なりだした。だが、新しいおがさわら丸は、揺れがかなり少なくなったように感じる。 速力は、古いおがさわら丸が22kt(ノット)だったのに対し、新おがさわら丸は 24.5ktである。時速で表せば毎時45kmである。そのため、甲板に出ていると、 かなり風が強い。船首で砕けた波しぶきが、びゅんびゅん飛んできて、 低いところの甲板は水浸しになるため、早々に閉鎖されてしまう。


  18時頃              01時頃            09時頃                11時30分
八丈島通過  -------> 鳥島通過 ------> 婿島列島通過 ------> 父島二見港入港

予定では、だいたいこのような航海スケジュールになっている。 通常、黒潮の流れている、大島〜八丈島の間が最も揺れる海域である (なぜ黒潮流域の波が高いかは知らないが…)。今回も、翌朝になると、 前日までのうねりが嘘のように穏やかになっている。風もなく、鏡のような 海面に飛魚が飛んでいる。海の色は、前日までの、黒潮の黒い海面と違い、 深いマリンブルーに変わっている。いよいよ亜熱帯だ。

父島上陸、母島へ
船内アナウンスで、予定より30分早く、11時に父島二見港に入港予定と告げられた。 同時に、悪天候のため、ははじま丸の出航が1時間遅れるとの案内もあった。 こんなに天気が良くて、波も無いのにどうしてだろうと思っていたが、 父島上陸早々、激しいスコールに見舞われてしまった。雨宿りを兼ねて昼食をとる。 1時間ほどでスコールもやみ、ぎらぎらと照りつける太陽が戻ってきた。 説明が後になったが、父島から母島への交通手段は、伊豆諸島開発(株)の 「ははじま丸(490t)」だけである。おがさわら丸と比べると、いかにも小さく 揺れそうな感じがする。母島までの所要時間約2時間。

母島到着
ははじま丸は思ったより揺れなかった。予定通り15時30分には、母島沖港に 接岸した。岸壁には宿の人達の迎えの車が来ており、「つき」の車も来ている。 母島の中心地は、島のほぼ中央付近に位置する、沖村(元地)というところで、 沖港のすぐ奥から北東方向に細長く集落が伸びている。 「つき」は、港から比較的近い所にある2階立ての民宿で、1階が食堂になっている。 部屋は和室が4部屋程あって、クーラーやテレビが付いている。驚くべきことに、 小笠原では東京で見ることの出来るテレビ局をすべて受信することが出来る。

母島島内の紹介
母島は、小笠原では父島に次いで大きな島で、南北に細長く、中央には乳房山という 標高463mの山がそびえている。周囲のほとんどが断崖絶壁で、砂浜はほとんど無い。 したがって、「ビーチでのんびり日光浴」などという事を考えている人には、 母島はお勧めできない。母島は、釣りと山歩き(ハイキング)の島である。 島を南北に縦断する道路は舗装されているが、坂が非常に多いため、移動には レンタルバイク(原付)がお勧めである。値段はちょっと高く1日3,000円であった (4日以上レンタルすると割り引きになる)。最初に、沖村から北半分を紹介しよう。

母島北部
沖村から北に向かって行くと、いきなり登り坂の連続となる。不幸にして、 クラッチがへたっているような、パワーの出ないバイクに当たってしまったら 最悪だ。最初のお勧めポイントは「新夕日ヶ丘」である。名前の通り夕日が奇麗で、 シーズンには鯨を見るための好ポイントになる。以降、所々に景色の良い展望台が 点在している。

20分程すると、道の右側に「石門入口」の看板が現れる。 私は行かなかったのだが、石門山は鬱躁としたジャングルで、石灰岩地帯のため、 鍾乳洞などが多く点在するらしい。案内人無しでは入らないようにとの注意書きが ある。

更に北上していくと、道が下りになり、右側に海が見えてくる。そこが 「東港」である。ここは、近年になって漁港整備工事が 進められており、防波堤工事なども行なわれているのだが、周囲には人家や漁業施設 はなにもなく、地元土建業者に金を落すための「公共事業」なのだと思う。 東港に至る途中には、旧日本軍の探照灯基地の跡があり、濠の中には現在でも探照灯が 形をとどめている。

母島の中心が沖村であることはすでに述べたが、戦前には島の北端近くにある 「北村」の辺りにも集落があったらしい。東京との定期船も運航されていたそうだ。 現在ではその様子は全く伺い知ることは出来ないが、唯一港の桟橋と北村小学校跡の 石垣が残っているだけである。港のあった所は、「北浜」という所で、 シュノーケリングをするにはお勧めの場所だ。海底にはテーブルサンゴが発達し、 カスミアジの群やウメイロモドキ、スズメダイ、チョウチョウウオなど、魚種も豊富だ。 また、ウミガメも頻繁に見られる。

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新夕日ヶ丘から向島方面を望む新夕日ヶ丘からの夕景
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東港と漁港工事北港

以上が、沖村から北側の見所である。

母島南部
次に、沖村から南側を紹介しよう。北側に比べて南側はなだらかな地形を呈していて、 「ビーチ」と名の付く所はこちら側に集中している。沖村のすぐそばには、 「小剣先山」があり、沖村の街並が一望に見渡せる(らしい ^^;)。 沖村からバイクで5分ほど走った所に、「ヘリポート」がある。その名の通り、 ヘリコプターの発着場なのだが、夜にここから見える星空は、私が今までに見た 「奇麗な星空ベスト5」に入ると思う。ほぼ360度を見渡すことが出来、アスファルト の上に寝転がって星空を眺めていると、あたかも宇宙空間から銀河系を眺めている ような、そんな気分に浸ることが出来る。是非月の出てない時に行って欲しい。

更に南へ下ると、「南京浜」と「御幸之浜」がある。「浜」と言っても、砂ではなく ゴロタ石の海岸で、海水浴にはお勧めできない。南京浜などは、ゴミが大量に散乱 しており、あまり奇麗な所ではない。

更に5分くらいバイクで走ると、そこで舗装道路は終り、そこから先、 母島の最南端である南崎までは徒歩になる。道はそれほど険しくはなく、 ハイキング程度の服装で良いだろう。ただし、飲料水は多めに持参する事を勧める。 南崎までの間に、万年青(おもと)浜、蓬莱根(ほうらいね)海岸、すりばち、 ワイビーチ、小富士などがある。この遊歩道を歩いていると、母島にしか生息して いない鳥「メグロ」をかなりの確立で見ることが出来る。日本にも良くいるメジロに 似ているが(小笠原にはメジロも多い)、目の回りが黒いので区別できる。 夏の間は真水が少なくなり、メグロが水を飲んだり、羽根に付いた虫を洗い落とす ことが出来なくなるため、遊歩道の所々に水浴び場が作られている。通りかかった 人が水を補給できるよう、水の入ったペットボトルが何本か置かれていた。 ここに水を貯めておけば、帰りには水浴びをしている鳥達の姿が見られるだろう。

南崎は、母島最南端の南側に面した白い砂のビーチ(ただし石も多いが…)である。 海中にはサンゴも多く奇麗であるが、沖合いに出ると流れが強いので注意が必要である。 もし、体力に余裕があれば、南崎のとなりの小富士に登ってみると良いだろう。 母島の南に点在する姉島や平島を眺めることが出来る。 舗装道路の終りから、南崎までの所要時間は、約1時間である。

omotohourenne
万年青浜蓬莱根海岸
suribatiminami
擂鉢南浜

以上、母島の観光スポットを簡単ではあるが紹介してみた。 今後、母島へ行く人の参考になれば幸いである。

小笠原旅行記中編へ続く