古代エジプトでは、昔の日本などと同じように、沢山の神がいてそれぞれが信仰されていました。各地方には、それぞれ信仰の中心となった神があり、それらの勢力関係で二つの神が一つの神に習合されたりしました。壁画などに良く登場する神は、アメン、オシリス、ホルス、ハトホル、イシス、アヌビスなどでしょう。


         

新王国時代の首都、テーベ(現在のルクソール)の主神で、他所で信仰されていた太陽神ラーと習合してアメン・ラーとなりました。ファラオの名前で××アメン、アメン××という名前は、この神の名前を付けています(例:アメンヘテプ、ツタンカーメン、アメンエムハト)。頭上に2枚の鳥の羽を付けた冠をかぶっているのが特徴です。時にはアモンと呼ばれることもあります。ルクソールのカルナック神殿はアメン神のために建設されました。余談ですが、アメン神はギリシャ、ローマではアンモンと呼ばれていました。そう、アンモニアやアンモナイトの語源になっているのです。なぜかと言うと、アメン神はしばしば羊の姿で描かれます。その角の形がアンモナイトの巻き方に似ているためだそうです。また、アンモニアは羊の糞から作られていました。なんとなくこじ付けのような気もしますが…。因みにアメンヘテプとは、「アメン神は満足する」という意味で、ツタンカーメンは「アメン神の生ける姿」、アメンエムハトは「支配者アメン神」という意味です。


        

オシリスは冥界の神で、ファラオは死ぬとオシリスになると考えられていました。神話では、オシリスの弟セトがオシリスの支配権を奪うため、オシリスを暗殺。遺体を切り刻んでナイル川に棄ててしまいます。オシリスの妹であり妻であるイシスが遺体を集め、魔術を使って復活させます。この時より、オシリスは冥界の支配者となります。「オシリスの審判」では、死んだファラオの心臓が、オシリスの前で善悪を判断する天秤にかけられます。天秤の片側には「マアトの羽根(ダチョウの羽)」が乗せられています。マアトとは真実・正義という意味です。もしこの時天秤が釣り合わないと、ファラオの心臓は、後ろに控えているワニの頭とライオンの胴体、カバの後ろ足を持つアメミトという怪物に食べられてしまいます。肉体に続いて魂も死んでしまう「再死」です。こうなったらもう復活の望みはありません(笑)。結果はアヌビス神に読み上げられ、神々の書記トトにより記録されます。手に持っているのは、ネケクとヘカアと呼ばれるもので、共に王権の象徴です。それらを胸の前で交差させた姿で描かれます。このポーズの事を”オシリス神のポーズ”と呼んでいて、ファラオのミイラも、同じ格好の人型に入れられます。再生復活を司ると考えられており、顔は植物の色、緑色に塗られています。また、体はミイラと同じく布で巻かれた状態です。


        

 ハヤブサの頭を持った神で、オシリス、イシスの息子と言われています。神話では、父オシリスの命を奪ったセトに復讐を挑み、勝利を収めます。太陽神ラーと習合し、ラー・ホルアクティになったりします。古王国時代には、ファラオはホルスの化身と考えられていました。ホルスの目は”ウジャト”と呼ばれ、お守りとして用いられたほか、分数を表すのにも使われていました。ホルスの頭部はエジプト航空のマークとして使われていて、機内誌のタイトルは"HORUS"です。


         

「ホルスの家」と言う意味のハトホルはホルスの妻で、牛の角の間に太陽を挟んだかぶりものを付けた姿で描かれるほか、牛の姿で描かれる事も多くあります。新王国時代以降は、イシスと同一視されることもありました。ハトホルはファラオに乳を与えるものと言われ、その事から王妃はハトホルと同一視される事もありました。テーベの西岸の支配者と言われ、デンデラにはハトホルを祭った神殿があります。


        

オシリスの妹にして妻。ホルスの母親です。頭上に玉座のシンボルを載せています。幼いホルスに乳を与えている姿で作られる彫像も多いです。エジプト王朝滅亡後もイシスの人気は衰えず、古代ローマでも信仰があったほどです。神話「ホルスとセトの争い」では、夫オシリスをセトに殺害された後、夫の遺体を集め復活させ、ホルスを生みました。ホルスを亡き者にしようとする、セトの企みをイシスはあの手この手で防いでいきます。このような献身的な性格から、イシスは古代エジプトでは大変人気がありました。また、イシスはミイラ作りの際、内臓を入れる4つの壷(カノプス壷)の1つの守護神ともされました。因みに、他の3つはそれぞれ、ネフティス、ネイト、セルケトの3女神が守護神です。ツタンカーメンの墓から発見されたアラバスター製のカノプス壷は見事です(新王国時代以降、これらの役目はホルスの4人の息子に変っていきました)。


        

犬またはジャッカルの頭を持つ神アヌビスは、古代エジプトではアンプウと呼ばれ、ミイラ作りの神とされていたほか、埋葬されたミイラを守護するとも言われました。オシリスの審判では、死者の心臓を天秤にかけ、結果を読み上げる係をしています。西方の支配者と呼ばれ(古代エジプトでは、西方は死者の国とされていた)、またミイラ作りの最終段階「開口の儀式」を執り行う神ともされていました。