ヒエログリフは、古代エジプトで用いられていた象形文字のことです。遺跡の壁などいたるところに描かれています。
発音を表す表音文字と、漢字のようにその文字自体意味を持つ表意文字の両方があります。さらに、表音文字で表された単語の意味を決定するための文字、決定詞があります。

古代エジプト語と言っても、立派な言語ですから、それをマスターするのは容易ではありませんが、取りあえず有名な王の名前をヒエログリフで表したものを覚えるだけでも、遺跡や博物館での楽しみは増える事と思います。もし、これ以上詳しい文法などを知りたい方は、下記の参考書をどうぞ。

エジプトのお土産として人気のある、カルトゥーシュを作るときも、知っておいたほうが楽しいでしょう。(名前入りカルトゥーシュのワンポイント・アドバイスはこちら) なお、このページで使用したヒエログリフのフォントは、古賀正彦氏作成のANUBIS for Windows Ver.2を使用しています。

更に詳しくヒエログリフを勉強したい人への参考書 (上のものほどやさしい)

その他ヒエログリフに関連する本

ヒエログリフの基礎
文字をどのように読むかの規則ですが、

  1. 縦書きにされる事も横書きにされる事もある
  2. 横書きの場合、左から読む場合も右から読む場合もある。動物などの顔が向いている方向が行頭です。
  3. 横書きの場合でも、スペースの関係で、1文字分のスペースに2文字以上縦に並べる場合がある。その場合は上から順に読む
  4. 縦書きの場合はかならず上から下に読む。1文字のスペースに2文字以上横に並べてある場合があるが、その場合の読み順は文字の向きに従う。読み進む列の方向は、文字の向きで判断する。
  5. 子音だけを表す表音文字と、文字自体が意味を持つ表意文字、単語の意味を一意に決定るす決定詞がある。母音を表す文字は存在しない。日本の漢字のように、一つの文字が複数の発音を表す事がある。
  6. 複数の子音を表す文字には、1子音文字が発音補助記号として使われる事がある。これは日本語で言う送り仮名のようなものだが、終わりの子音だけでなく、語の先頭の子音にも補助として添えられる。
  7. 神名、「王」などの文字は先頭に来る(尊敬の倒置)
  8. 母音がわからなければ発音は出来ないので、現代の我々は必要に応じて e (え)という母音が続くものとして発音し、最後の子音にはu(う)またはo(お)という母音を添える。ただし、母音に似た発音をするいくつかの子音が続く場合、この限りではない。

という決まりがあります。ちょっと難しい表現になってしまいましたが、これらの規則は日本語の表現方法と良く似ているのです。
日本語にも横書きと縦書きがありますね。それと同じようにヒエログリフにも横書きと縦書きがあります。日本語と違うのは、文字を鏡に映して左右反転させた文字も存在すると言う事です。例えば、以下は速いという単語ですが、
 は右から左に読み、   は左から右に読みます。文字が重なっている場合は上から先に読みます。行を読み進める方向は、必ず上から下です。
縦書きの場合、 あるいは のように表します。同じ高さに文字がある場合、文字の向きで判断します。列を読み進める方向も単語の向きで判断し、単語の向いている方向の列から読み始めます。この単語は「カアク」と発音しますが、一文字でカアと発音します。これに送り仮名に相当する「ア」という1子音文字を添えて、の読み方を規定しています。は「ク」と発音する1子音文字です。最後のは動きを表す動作を意味付ける決定詞です(発音しません)。決定詞の役割とは、日本語に例えて説明すると、かなで「ひ」と書いただけでは、日なのか碑なのか妃なのか判りませんね。そこで「ひ(王)(女性)」のようにして、意味を決定するのです。この( )内に相当する文字が決定詞で、2つ以上の文字が続く事もあります。
文字を重ねる場合、スペースの関係と見栄えの良さで決められます。書いてある内容が明白な場合、文字の順序より見栄えが優先される事もあります。古代エジプト人達は、対象性の美を好んで表現していましたので、上の例のように左右で向き合ったような感じで碑文などが描かれている例が大変多いです。

カルトゥーシュとは
ファラオの名前は、多い時代で5つの呼び方があります。「ホスル名」「二女神名」「上下エジプト王名(即位名)」「サー・ラー名(誕生名)」「黄金のホスル名」です。これらのうち、上下エジプト王名とサー・ラー名の2つは、ロープで作った輪の中に囲まれて表される事になっています。この輪の事を「カルトゥーシュ」と呼びます。因みに、カルトゥーシュとはフランス語で薬莢の事です。形が似ているため、そう呼ばれました。古代エジプト語ではメンシュと言いました。

 カルトゥーシュ(横書き用、左が頭)

壁面に掘られた文字の中からカルトゥーシュを見つけて、ファラオの名前を言い当ててみましょう!
また、カルトゥーシュの純金ペンダントは、エジプトのお土産の代表的なものです。自分の名前をカルトゥーシュの中に彫ってもらえます。その際のアドバイスは「ワンポイント・アドバイス」に記しました。裏が無地のものと、歴代のファラオの名前が入っているものとあります。それが誰のものか判断する際にも、以下の例が参考になるでしょう。

代表的なファラオの例
ここでは、前項で取り上げたファラオについて、上下エジプト王名、サー・ラー名を掲げます。これ以外の王名は、松本弥著 「ヒエログリフをひらく」(株)弥呂久などを参照してください。ここのヒエログリフもこの本を参考にしています。
以下では、すべて左から右に読むように記してあります。
は上下エジプト王名のことで、ネスウビトと読みます。即位名とも言われ、王位を継承したときに付けられます。 はサー・ラー名で、太陽神ラーの息子と言う意味です。誕生名とも言われ、生まれたときに付けられる名前です。なお、王名の表記は、他にも表記法がある場合があり、必ずしも下記の通りに描かれる訳ではありません。


ラムセス2世

 
読み:ネスウビト ウセル・マアト・ラー セテプ・エン・ラー (太陽神ラーの真理は力強い 太陽神ラーに選ばれし者)
解説:は太陽円盤を表し、ラー神を意味します。1重円の時も多くあります。神様の名前なので、先頭に来ます。はマアト女神で、ダチョウの羽を頭につけているのが特徴です。女神が直前の文字(ウセル)を手に持って描かれている事もしばしばあります。

読み:サー・ラー ラー・メセスゥ メリィ・アメン (太陽神ラーの作りし者 アメン神に愛されし者)
解説: この3文字で「アメン」と読み、アメン神を表します。この文字は王名には頻繁に出てきます。


ツタンカーメン

読み:ネスウビト ネブ・ケペルゥ・ラー (太陽神ラーの出現の主)
解説:名前の2文字目はフンコロガシ(スカラベ)です。読み方が逆ですが、これもラー神への尊敬の一表現だそうです。

読み:サー・ラー トゥト・アンク・アメン ヘカァ・イウヌウ・シェマァ(アメン神の生ける姿 ヘリオポリスの支配者)
解説:「ツタンカーメン」とは、「トゥト・アンク・アメン」をリエーゾンした呼び方です。アメン神の部分がアテン神   になっている時があります。これは先王のアケナテンが存命当時の名前です。博物館で探して見ましょう。は生命のシンボルで、「アンク」と読みます。神がファラオにアンクを授けている場面が沢山出てきます。お土産屋さんでこれのペンダントを売っています。


トトメス3世

読み:ネスウビト メン・ケペル・ラー (太陽神ラーの出現は永続する)

読み:サー・ラー ジェフウティ・メス (トト神の誕生)
解説:ジェフウティ(1文字目)はトト神の事です。ヒエログリフを発明した神といわれています。トキの頭を持った姿で描かれます。

アメンヘテプ3世

読み:ネスウビト ネブ・マアト・ラー (真理の主、太陽神ラー)
解説:メムノンの巨像で、このカルトゥーシュを探してみましょう

読み:サー・ラー アメン・ヘテプ ヘカァ・ワセト (アメン神は満足する テーベの支配者)
解説:テーベ(現在のルクソール)は、古代エジプト語でワセトと言いました。テーベというのはギリシャ語で宮殿という意味です。

アケナテン(アメンヘテプ4世)

読み:ネスウビト ネフェル・ケペルゥ・ラー ワア・エン・ラー (太陽神ラーの出現は美しい 太陽神ラーがすべてである)

読み:サー・ラー アク・エン・アテン (アテン神の栄光)
解説:アテンと発音する文字  に続く  は太陽に関するものを表す決定詞で、アテンという単語が太陽、すなわちアテン神であることを決定付けます。


ハトシェプスト女王

読み:ネスウビト マアト・カー・ラー (太陽神ラーの魂は真実である)
解説:は「カー」と言い、魂のようなものと考えられますが、今の我々が一言で「魂」というものが、古代エジプトでは、バァ、カー、アクの3種類あるのです。

読み:サー・ラー ハアト・シェプスウト ケネメト・アメン (貴婦人の中の貴婦人 アメン神と結ばれし者)
解説:ハアトは「先頭に立つ者」という意味があります。貴婦人の先頭に立つ者=貴婦人の中の貴婦人という事です。

ネフェルタリ(ラムセス2世妃)

読み:ネフェルト・イリ メレト・エン・ムウト (美しき者 ムト女神に愛されし者)
解説:王妃の谷のネフェルタリの墓は、人数制限付きで一般公開されたそうです(注:2003年1月1日より再びクローズされました)。ムト女神とはアメン神の妻です。